大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

岡山地方裁判所 平成11年(ワ)535号 判決

原告

見高由起子

被告

初田幸樹

主文

一  被告は、原告に対し、金七七〇万円及びこれに対する平成一〇年四月一一日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

主文と同旨。

第二事案の概要

一  争いのない事実

1  交通事故の発生(以下「本件事故」という。)

(一) 日時 平成一〇年四月一一日午前一時一〇分ころ

(二) 場所 兵庫県赤穂郡上郡町落地国道二号一二六・〇キロポスト

(三) 被害者 原告

(四) 被害車両 普通乗用自動車(岡山三四そ八三三三)

(五) 加害者 被告

(六) 加害車両 普通乗用自動車(なにわ五八ふ六八〇九)

(七) 事故態様 前記日時場所において、被告運転車両が、センターラインを超えて反対車線を走行中の大型貨物自動車及び原告運転車両に衝突したものである。

2  賠償責任

被告には、安全運転・前方不注視等の注意義務違反があるから、被告は、原告に対し、いわゆる自賠法三条に基づき、損害賠償の責任がある。

3  本件事故による受傷と後遺障害

原告は、自賠責保険において、女子の外貌醜状及び一手の拇指の指骨の一部喪失の後遺障害により、併合して後遺障害等級一一級の認定を受けた。

4  既払金

原告は、平成一一年四月二八日、自賠責後遺障害保険金として、金三三一万円の支払を受けた。

二  争点

本件事故により原告が被った損害額(原告の主張は次のとおり)

1  後遺障害に基づく慰謝料として 金四〇〇万円

2  後遺障害に基づく逸失利益として 金八七三万三〇〇〇円(端数切り捨て)

原告は、高卒の一九歳の会社員であり、全年齢平均の賃金センサス金三二〇万七一〇〇円の収入を得る蓋然性があり、後遺障害等級一一級、労働能力喪失割合二〇パーセント、喪失期間年数を二〇年と考え、新ホフマン係数を一三・六一六として算定した。

3  弁護士費用として 金七〇万円

本件では、右(一)(二)の合計金一二七三万三〇〇〇円の内金七〇〇万円を請求し、その一割相当額が弁護士費用としての損害金に相当する。

第三争点に対する判断

一  争点1(後遺障害慰謝料)について

1  証拠(甲一ないし三、四の一、四の二、五の一、五の二、一四ないし一八、一九の一、二、三〇、三一、乙一、四、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故により、左拇指基節骨剥離骨折、前額部切創、頸椎捻挫等の傷害を負い、事故当日の平成一〇年四月一一日から同年一二月一九日までの間、通院治療を行ったこと、右最後の通院日に原告の症状が固定したこと、原告の本件事故による後遺障害について、平成一〇年一一月四日付の後遺障害等級事前認定票において、一手の拇指の指骨の一部喪失により後遺障害等級一三級と認定されたこと、その後、原告の前額部に長さ三センチメートルの創痕があることを理由とする異議が申し立てられ、平成一一年三月一日付の同認定票において、右創痕について女子の外貌醜状に該当するとして、後遺障害等級併合一一級と認定されたこと、原告は、昭和五四年一二月一日生の女子で、前記症状固定時一九歳であったこと、原告は本件事故当時車用品店に就業し、接客、レジ打ち、事務等を担当していたこと、原告自身は接客業に携わることを望んでいることがそれぞれ認められる。

2  右認定事実及び本件に顕れた諸般の事情に照らせば、原告が本件事故により被った後遺障害について、これを慰謝するに足りる金額は金三五〇万円を下らないものと認めるのが相当である。

よって、原告が被った後遺障害慰謝料としての損害額は金三五〇万円と認められる。

二  争点2(後遺障害逸失利益)について

1  証拠(甲三、三〇、乙一、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告の前額部には長さ三センチメートルの創痕以外にそれより小さな創痕が多数あること、原告は、高校卒業後、平成一〇年三月一六日から自動車部品、用品販売を業としている株式会社オカヤマイエローハットに勤務を始め、接客、レジ打ち、事務等を担当していたこと、本件事故後、原告が本件事故により休業したのは、一日か二日だけで、それ以外は通常通り仕事に出ていたが、本件事故で被った障害の影響により仕事の能率が下がったことあるいは前額部の創痕が気になったことなどから職場に居づらくなり、原告は、平成一一年一〇月一五日、退職したこと、本件事故後、右退職するまで、原告の給与が下げられたことはなかったことがそれぞれ認められる。

2  右認定事実に加え、前記一1で認定した事実を併せ考慮すれば、原告が本件事故で被った一手の拇指の指骨の一部喪失により、原告の労働能力は制限される結果となり、また、前額部の創痕による外貌醜状は接客業への就業等を制限する要因となるものとみられるから、右両後遺障害により、原告の労働能力が一部喪失したと認めるのが相当である。そして、それらの後遺障害の程度を考慮すれば、労働能力喪失の割合は二〇パーセントと認めるのが相当である。また、後遺障害の程度等諸般の事情に照らせば、喪失期間は二〇年間とするのが相当であり、逸失利益の基準となる収入額について、原告は平均賃金を取得できる蓋然性があったと認められるから、全年齢平均賃金センサスを基準として逸失利益を算定するのが相当である。そうすると、本件事故による後遺障害を原因とする逸失利益は、金三二〇万七一〇〇円(全年齢平均賃金センサス)×〇・二(労働能力喪失割合)×一二・四六二二(喪失期間二〇年間とするライプニッツ係数)=金七九七万五八〇八円となる。

よって、本件事故による逸失利益としての損害額は、金七九七万五八〇八円と認められる。

三  争点3(弁護士費用)及び損害額全額について

前記一及び二の損害額合計額金一一四七万五八〇八円から既払金三三一万円を控除すると、残金八一六万五八〇八円となる。原告は、その内金七〇〇万円を請求しているから全額認容でき、弁護士費用としての損害金はその一割に相当すると認められるから、合計金七七〇万円が原告の損害賠償請求権として認められる。

なお、仮執行免脱宣言は相当でないからこれを付さないこととする。

(裁判官 小森田恵樹)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例